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「幸せになる・幸せにする経営学」 児山 俊行 助教授
 
2005年07月19日
「幸せになる・幸せにする経営学」 児山 俊行 助教授

皆さん、突然ですが、「おカネをモノに替える」のと「モノをおカネに替える」のとでは、どちらがむずかしいと思いますか?(ちょっと品のない表現で申し訳ありません)

今の若い人たち(10代)は「おカネをモノに替える」、つまり「何を買えばいいか」といった選択のセンスは確かに鋭いかもしれません。でも「モノをおカネに替える」ことができるのは、せいぜい中古品をリサイクルショップに持っていくか、「商品」でもある自分の労力と引き換えにコンビニで時給アルバイトをすることくらいではないでしょうか。むしろ、本格的にビジネスをやる限り、「どこへ行っても私はやっていける!」と言えなければなりませんし、そのためには、「モノをおカネに替える」ことのできる創造のセンスを磨くことが大切ではないかと思います。

まず最初に、携帯電話とインターネットが合体した【iモード】のお話しから始めたいと思います。現在、数千万ともいわれるユーザーをかかえる【iモード】とその通信業者であるNTTドコモは、このようなサービスを簡単に生み出したわけではありません。実は長い間、その“合体技術”をビジネスの役に立たせることができなかったのです。それは、【iモード】中に企業がホームページを持つためにはたくさんの加入金が必要だったからです。当時、いまだ得体の知れない【iモード】という世界に、いきなり多くの投資をするほどバブル崩壊後の企業は余裕がありません。それでもNTTドコモ側は、とにかく加入金でもうけよう(損せぬようにしよう)というスタンスでしたから、両者にらみ合いのまま、【iモード】技術は宙に浮いたままだったのです。

それを解決したのが、ある一人の女性です。その方は携帯電話がキライで、当時は持ってもいないし、使ったこともない、使い方も知らないというような方でした。それでも、【iモード】という「サービス」を創造したのです。このような“携帯音痴”の一女性が、どのように新しい技術をしっかりビジネスに生かすことができたのでしょうか?要するにそれは、【iモード】に関わる全ての人々が得をする(だれも損をしない)仕組みを考えたからなのです。

まず彼女はNTTドコモに、【iモード】への加入金を廃止させて、HP設置の場所だけ貸すようにしました。そうすれば、例えば着メロ配信企業の場合、①【iモード】にHPを作ってユーザーを呼び込み、②気に入ってもらえれば月に300円程度の登録料で着メロをダウンロードし放題にする。③ユーザーは低額なため気軽に登録し、いつでもどこでもダウンロードできる。それで【iモード】がにぎやかになってくると、④最初は場所貸しだけだったNTTドコモにも通信パケット料で利益が生まれてくる・・・といった仕組み(ビジネスモデル)を彼女は提案したのです。

このように、そこに関わる全ての立場の人が得をするようなビジネスモデルを【WIN-WIN】モデルというそうです。直訳すれば「勝者と勝者」モデル、ということになるのでしょうか。一方で「勝ち組」「負け組」という表現があるように、資本主義というものは必ず「勝者と敗者」が生まれると言われています(さらにエスカレートして、「相手に損をさせて自分のもうけにする」方式の「悪徳商法」や「振り込め詐欺」すら、まかり通るのが今の社会です)。ところが、最近のビジネスモデルの成功例は、この【WIN-WIN】パターンが多いそうです。そこには利益だけでなく、賞賛と尊敬と信頼と感謝もついてくるという大きな“おまけ付き”なのです。この【WIN-WIN】モデルは海外発のものらしいのですが、実は日本でも昔からその考え方は存在していました。皆さん、ご存知でしょうか?

それは商人(あきんど)の【三方よし】というもので、「売り手よし、買い手よし、世間よし」というものです。それは単なる【WIN-WIN】にとどまらず、今で言う「企業の社会的責任」も、「企業利益」と「顧客満足」とともに三両立させる理念だと言えるでしょう。この起源は、安土・桃山時代の「楽市・楽座」で経済発展した琵琶湖地域発祥の“近江商人”にあります(現在の有名な老舗企業で、この近江商人を源にしているものがいくつかあります)。かつて豊臣秀次が開いた近江八幡という町へ行くと、昔ながらの水路や家並みが保存されています。そこにある、かつて豪商と言われた西川家の邸に入ってみると、中は確かに広いのですが、家族や多くの奉公人が働き、一緒に住むことを考えると、十分に余裕のある広さとはいえないような気がしました(立派なお庭もありますが、これも大きいというわけではありません)。どうやら彼らには、いわゆる【始末】という考え方が徹底されていたようです。つまり、普段の生活では質素にしながら、いざという時にはお客さまや将来の大きな利益のためにおカネを惜しまないという商人感覚であって、何かにつけて出し惜しみをする「ケチ」などとは全く違うものだそうです。

では、次回に【三方よし】を具体的な例で考えてみましょう。


 
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